街の安全を守る「建築基準法」。でも、この法律が裁判でどう使われるか、知ってますか?
今回は、大阪高等裁判所で実際にあったお話(令和4年5月31日判決、「令和4年(行コ)第12号 建築確認処分取消請求控訴事件」)を、
みんな大好きストーリー仕立てでご紹介! さあ、はじまり、はじまり~!
ビルが建っちゃった! 「この許可、ヘンでしょ?!」 …でも裁判所は 「もうお祭り終わったよ~」だって?!
【 今日の登場人物はコチラ! 】
- ご近所パトロール隊 (住民たち) 「うちの横のビル、なんかヤバくない?」 街の異変に気づいた正義感あふれる皆さん。
- ハンコは押したけど…の人 (確認機関) 「書類?見ましたよ。ルール通りにハンコ押しただけなんで、ハイ」 って感じの、お役所的なプロ集団。
- 話題のビル建てたA社 (建築主) 今回は名前だけ登場。 でも、この会社が建てたビルが、全ての始まりなんだ。
- 街のニューフェイス、例のビル (問題の建物) 口はきかないけど、とんでもない存在感。 みんな、この子のことで大騒ぎ!
【 第一幕 】 「なんかおかしいぞ?」 ハンコ2つと、住民さんたちの「待った!」
平和な街に、ある日とつぜん 「A社」って会社が 「ここにドーンとビル建てちゃいます!」 って言い出したのが、このお話のスタート。
まずね、令和元年の8月20日。 A社は最初の計画で、確認機関から 「よーし、これなら建ててOK!」 って、ピカピカの一つ目ハンコ (これが最初の「建築確認」ね) をもらったんだ。
でも、話はそこで終わらない。 A社、「やっぱ、ちょっと計画変えたいな~」ってなって、 令和2年の12月22日。 今度は変更した計画で、またまた確認機関から 「うん、こっちも大丈夫!」 って、キラキラの二つ目ハンコ (これがウワサの「変更確認」ってやつ) をゲット!
これに「ちょっと待ったぁ!」と声を上げたのが、 ビルのすぐそばに住んでる「ご近所パトロール隊」の皆さん。 「あのビル計画、どう考えても法律違反じゃないの?!」 「それなのにOKハンコ押しちゃうなんて、確認機関の仕事、手抜きじゃないの?!」 って、そりゃもう、プンプン丸! だから、最初のハンコも、二つ目のハンコも、 「どっちも取り消してよ!」 って、大阪の地方裁判所に駆け込んだってワケ。
【 第二幕 】 地裁のジャッジは… 「古い方はもうダメ、新しい方は…う~ん、証拠がねぇ」
さてさて、地方裁判所での第一ラウンド。 裁判官は、こんな風に言ったんだ。
「えーっとね、皆さん。」 「最初のハンコ(最初の建築確認)の件だけどね。」 「新しいハンコ(変更確認)が出た時点で、 古い方のハンコはもう意味なくなっちゃってるのよ。」 「だから、今さら古いハンコのこと言われても、 裁判所としては『はい、おしまい!』ってするしかないんだ」 (訴えの利益がないから却下ね)
これには住民さんたちも、 「まぁ、そう言われりゃそうか…」 って感じで、これはこれで一件落着。
「で、問題は新しい方のハンコ(変更確認)だよね。」 「Bさん(住民代表のひとり)が訴える権利があるのは認めるけど」 (原告適格はOK!ってことね) 「そのハンコ自体が法律違反だったっていう住民たちの主張は、 ちょっと証拠が足りないかなぁ…。」 「だから、こっちの訴えは、残念だけど認められません!」 (請求棄却) だって。
この「認められません!」に、住民たちは 「そんなのアリかー!納得いかないぞ!」 って大合唱。 「こうなったら、もっと上の裁判所で決着つけてやる!」 ってんで、大阪高等裁判所に上告したんだ。 さあ、戦いの舞台は次のステージへ! 今度こそ、住民たちの言い分は通るのか?!
【 第三幕 】 高裁で大どんでん返し?! 「えっ、ビル…もう建っちゃってるじゃん!」 で、まさかの急展開!
高等裁判所で「ああでもない、こうでもない」って 熱いバトルが繰り広げられてる真っ最中に、 とんでもないニュースが飛び込んできた!
なんと、あのずーっとモメてたビル、 令和4年の1月27日までに、 工事がぜーんぶ終わっちゃって、 おまけに役所から「はい、ちゃんと出来上がりましたね!合格!」 っていう「検査済証」までもらっちゃってたんだ!
これを聞いた確認機関側は、ここぞとばかりに反撃開始! 確認機関の弁護士: 「裁判長!聞きました?!」 「ビル、もうピッカピカに完成してるんですよ!」 「検査もバッチリ通ってます!」 「そもそも建築確認っていうのは、 『これから工事していいですよ』っていう 許可証みたいなもんでしょ?」 「工事が終わっちゃった以上、 その許可証の役目も、とっくに終わってるんですよ!」 (昔、最高裁判所もそう言ってますしね、昭和59年の有名な判例で) 「だからね、今さらその許可を取り消せー!なんて言っても、 もう『訴える意味がない』んです!」 「この裁判、もうおしまいにしてくださいよ!」 「もし本当に、住民たちが言うみたいに 違法な建物だって言うなら、それはまた別の手続きでどうぞ。」 「役所に『あのビル、直させて!』ってお願いするとか、 そういうのがあるでしょ?」
これに対して、ご近所パトロール隊も黙っちゃいない! 住民側の弁護士: 「ちょっと待ってくださいよ!」 「ビルが建ったからって、 法律違反が見逃されていいわけないでしょ!」 「昔の最高裁判例が言ってるのは、 許可の効力が切れるってだけで、 違法な状態をどうにかする方法まで 教えてくれてるわけじゃないんです!」 「法律にだって書いてあるじゃないですか!」 「許可の効力がなくなっちゃった後でも、 その許可を取り消すことで何か良いことがあるなら、 訴えていいって!」 (行政事件手続法9条1項のカッコの中、よーく見てください!) 「最近は、困ってる人を助けるために、 もっと広く『訴える権利』を認めてあげようよって 流れじゃないですか!」 「そもそも、おかしな許可で建てたんだから、 建物自体がおかしいまま建ってるんですよ!」 「いちいち別の裁判起こすなんて、面倒くさすぎます!」 「この裁判で白黒ハッキリさせるのが、 一番手っ取り早いし、 それが住民たちにとって一番良いことなんです!」 「それにね!」 「ビルを建てる前の、あのメンドーな計算チェック (構造計算適合性判定のことね)!」 「あれ自体がそもそもおかしいんです!」 「それでおかしなハンコ(建築確認)が出ちゃってるんだから、 ビルが建ったからって、 それを『おかしい!』って言う権利までなくなっちゃうなんて、 そんなのヒドすぎます!」
法廷は、「え、ビルもう建っちゃったの?!」っていう 衝撃の事実にグラグラ揺れて、 「そもそも、この裁判、まだ続ける意味あるの?」 っていう、根本的な問題で大モメになったんだ。
【 最終幕 】 裁判所の答えは… 「ゴメン、もうお祭り終わっちゃったんだわ…」 ってコト?!
そして、運命の令和4年5月31日。 大阪高等裁判所の裁判長が、 静かに、でもハッキリと、こう言い渡した。
裁判長: 「えー、判決を言い渡しますね。」 「まず、前の地方裁判所が 『住民たちの言い分はダメ』って言った部分 (原判決主文第2項)、あれは取り消します。」 「その上で、」 「A社さんに出した令和2年12月22日の建築確認 (第NK一○○号)の取り消しを求める 住民たちの訴えは…」 「うーん、残念だけど、ぜーんぶ、おしまいにします!」 (却下)
シーン…と静まり返る法廷。 裁判所が言いたかったのは、つまりこういうこと。
「あのね、皆さん。」 「ビルは令和4年1月27日に完成して、 ちゃんと『OK!』っていう検査済証も出てるんですよね。」 「ってことはですよ、」 「A社さんの計画が法律に合ってるか見てハンコを押した 『建てていいですよ』っていう建築確認 (今回の変更確認のことね)、」 「あれの法的なパワーは、 ビルがドーンと建った時点で、 もうなくなっちゃってるんですよ。」 「だから、そのハンコを今さら『やっぱり取り消して!』って言われても、 もう意味がないんです。残念だけどね」 (昭和59年の最高裁判所の判断も、そういうこと言ってるし)。
「住民たちが 『おかしなビルがそのままなんて、イヤだ!』 って言う気持ちは、よーく分かりますよ。」 「でもね、法律には、ビルが建っちゃった後でも、 役所が『そこ、法律違反だから直しなさい!』って 命令できる仕組み(違反是正命令っていいます)が ちゃんと用意されてるんです。」 「確認を取り消すのとは別に、そういうやり方があることも考えると、 今回の訴えでそれを求めるのは、ちょっと難しいかなぁ…と。」
「住民たちが言う、 最近の裁判ではもっと広く訴えを認めるべきだとか、 建てる前の計算チェック(適合性判定)がおかしいんだ、とかいうお話も、 色々聞きましたけどね。」 「やっぱり、ビルが完成しちゃった以上、 この建築確認を取り消すことで、 住民さんたちに何か法的に回復できる良いことがあるとは、 ちょっと考えにくいんです。」
つまり、高等裁判所は、 住民さんたちの言い分が 「正しいか、間違ってるか」 (つまり、ビルが本当に法律違反なのかどうか) を判断する“前”に、 「ゴメンナサイ!」 「もうこの話、これ以上続けても意味がないんですわ…」 (訴えの利益がない) ってことで、門前払い(訴え却下)にしちゃったんだ。
ビルがドーンと建っちゃった。 その時点で、「建てていいよ」っていうお墨付き(建築確認)の役目は終わっちゃった。 だから、そのお墨付きを今さら「やっぱりアレ、ナシで!」って言っても、 法律的には「もうお祭り、終わっちゃいましたよ~」ってことらしい。
ご近所パトロール隊の皆さんの戦い、 ビル完成っていう、あまりにも大きな現実の壁の前では、 法的なゴールテープを切らせてもらえなかったんだ。
なんだかスッキリしないまま、空に向かってそびえ立つビル。 住民たちの胸の中は、きっと、もっともっと複雑な思いでいっぱいだろうなぁ。 彼らに、次の一手はあるんだろうか? それとも、街の景色は、このまま変わっていくしかないんだろうか…。 このお話、なんだかまだ、続きがありそうな気もするよねぇ。
このお話で、なんとなく分かったこと
ビルがちゃんと完成して、 役所の「OK!」サイン(検査済証)まで出ちゃうとね、 そのビルを「建てていいよ」って言った最初の許可(建築確認)を 「取り消して!」って裁判で言うのは、 基本的には「ゴメン、もうその話、終わってるから…」 ってなっちゃうことが多いみたい。 (昔の偉い裁判所の判断がそうなってるからね)
もし完成しちゃったビルが本当に法律違反だったら、 建築確認を取り消すのとは別に、 役所が「そこ、直しなさい!」とか「使っちゃダメ!」って 命令するような、別のやり方で対応する ことになるんだってさ。
ビルを建てる前の、難しい構造計算とかをチェックする 「適合性判定」っていうのは、 建築確認っていう大きなお仕事の一部分って考えられてて、 それだけを独立して「あの判定はおかしい!」って 裁判で争うのは、今の法律ではちょっと難しい みたいだね。
(おしまいっ!)