先日(2025年5月7日)、矢作建設工業の2025年3月期決算が発表になりました。
売上は過去最高だった一方で、利益は少しお休み、という結果でした。
この数字には、今の建設・不動産業界のリアルと、これからどう動くべきかのヒントが詰まっているように感じます。
この記事では、その決算内容を一緒に見ていきながら、同業者として僕らが何を参考にできるか、少し掘り下げて考えてみたいと思います。
個人的にこの会社、ちょっと気になっているので、その理由なんかもお話しします。
決算のポイント:好調な売上の裏で、コスト増が響く
まずは、今期の成績表をざっと見てみましょう。
項目 | 2025年3月期実績 | 前期と比べて |
---|---|---|
売上高 | 140,699 百万円 | +17.4% |
営業利益 | 8,654 百万円 | -9.0% |
経常利益 | 8,616 百万円 | -10.1% |
親会社株主に帰属する当期純利益 | 5,643 百万円 | -12.7% |
売上は 17.4% も増えていて、これはすごい数字です。 大きな物流施設の工事などが順調に進んだおかげみたいですね。
ただその一方で、利益は少し減ってしまいました。
皆さんも実感していると思いますが、材料費の高止まりや人件費の上昇が、やはり利益を圧迫している格好です。
事業ごとにもう少し詳しく
建設事業:受注も売上も、まだまだ元気
会社のエンジンである建設事業は、とても好調です。
▼受注した仕事
- 建築工事:103,000百万円 (1.0%増)
- 土木工事:43,182百万円 (31.0%増)
- 合計: 146,182百万円 (8.3%増)
▼売上になった仕事
- 建築工事:86,529百万円 (32.2%増)
- 土木工事:32,172百万円 (4.6%増)
- 合計: 118,701百万円 (23.4%増)
特に土木の受注がグッと伸びているのが心強いですね。 これからも安定して仕事がありそうな状況が見えてきます。
不動産事業:去年が良すぎた反動
不動産の方は、売上が 21,997百万円 と、6.8%のマイナスでした。
これは、前の期に大規模な自社開発産業用地の売却があった影響が大きいです。 不動産ビジネスは、こういう大きな案件一つで数字がガラッと変わることがあるので、ある程度は仕方ないところかもしれません。
会社の体力と、来年に向けた見通し
会社の財産や借金は?
仕事が大きくなるにつれて、会社の総資産は 144,220百万円 に増えました。 これは、工事代金の未回収分(売上債権)が増えたのが主な理由です。
一方で、工事の支払いのために借入金も増やしており、自己資本比率は52.8% から 47.7% に少し下がっています。
営業活動でのお金の出入り(キャッシュ・フロー)が マイナス になっていますが 、これは売上が増えて入金待ちのお金が増えたことが原因なので、事業がうまくいっている裏返しとも考えられます。
来期予想と株主への約束
来期(2026年3月期)は、さらに力強い数字を計画しています。
項目 | 2026年3月期予想 | 今期と比べて |
---|---|---|
売上高 | 168,000 百万円 | +19.4% |
営業利益 | 10,000 百万円 | +15.5% |
経常利益 | 9,900 百万円 | +14.9% |
親会社株主に帰属する当期純利益 | 6,600 百万円 | +16.9% |
そして、特に注目したいのが、株主への配当の方針を変えたことです。
これまでは「利益の30%以上を配当」という目標でしたが、これからは「自己資本配当率(DOE)5%以上」を目標に、減配をしない「累進配当」を基本にするとのこと。
これは、短期的な業績にふらつかず、安定して株主に報いていくという強い意志の表れです。
今期は75周年の記念配当もあって年間 80円 、来期はなんと 90円 の配当を予定しているそうです。
【考察】僕らが矢作建設から学べること
この決算を見て、僕たち同業者が「なるほど」と思えるポイントを3つ挙げてみました。
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柱となる事業の強さ 建築と土木、両方の分野で大きな仕事を取り続けて売上を伸ばしている点は、素直にすごいなと思います。自分の得意分野をしっかり持ちつつ、複数の柱で会社を支えることの大切さを感じます。
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攻めと守りのバランス感覚 事業を伸ばすために借金をして投資するのは当たり前ですが、それでも 自己資本比率47.7% というしっかりした財務を保っている。このアクセルとブレーキのバランス感覚は見習いたいです。
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株主への丁寧なメッセージ DOEや累進配当といった具体的な言葉で株主への還元策を示すのは、とてもうまいやり方です。 これは「うちは安定して稼げますよ」という自信の表れであり、株主や取引先といった周りの人々からの信頼につながります。
【こっそり】僕がこの会社に注目するワケ
最後に少しだけ個人的な話を。僕がこの会社に魅力を感じるのは、次の3点です。
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成長性 建設事業を軸に来期も大きく伸びる計画を立てていて、頼もしさを感じます。
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株主への手厚い姿勢 「減配なし」を基本にする新しい配当方針は、長期で応援したいと思わせてくれます。 記念配当を出すあたりも、株主を大事にしている感じがして良いですよね。
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財務の安定感 これだけしっかりした自己資本比率があれば、何かあっても簡単には揺らがないだろうという安心感があります。
安定した配当をもらいながら、会社の成長も期待できる。 そんな風に思わせてくれる会社です。
本記事は、決算情報をもとに筆者の考えを述べたものであり、特定の株式の購入を推奨するものではありません。投資に関する最終的なご判断は、ご自身の責任においてお願いいたします。