我々は、単なる「靴で歩くコンクリートの床」のことを、なぜか「大地と生活が交差する、根源的なアリーナ」と呼びたがります。
締め切り前、ボスのデスクが砂利やサンプルで埋まったときは、ただの叩き(たたき)が「地球の延長線」に昇華される合図です。
建築ポエム会議:土間編
とある設計事務所の深夜。 一級建築士のボスと、その部下たちが、翌日のプレゼン資料を前に頭を抱えていました。
ボス: 「……ボツだ。この資料、あまりにも実用性が透けて見える。なんだこの『自転車も置ける、広くて便利な玄関土間』という、賃貸マンションのスペック表みたいな言葉は。」
【登場人物】
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ボス: 生活感を憎み、概念で白飯を食う所長。
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チーフ: 無茶振りをポエムに焼く、目がバキバキの魔術師。
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新人: 唯一の人間。心のツッコミが止まらない。
チーフ: 「すみません。つい、多目的空間としての機能を優先してしまいました。では、『都市の皮膚を室内に引き込み、住まい手の野性を呼び覚ます、境界なき広場』に変えましょうか?」
ボス: 「いいぞ。その調子だ。ついでに、この『冬場は底冷えして、リビングまで極寒になるコンクリート床』も格上げしろ。」
新人: 「いや、これ普通に寒いですよ。暖房代が跳ね上がるし、夏は夏で湿気がすごくて、カビが生えそうな予感しかしないんですけど?」
チーフ: 「(冷徹な目で)新人くん、それは寒さじゃない。『地球の熱容量と直接対話するための、フィジカルなインターフェース』だよ。湿気は、『空間が呼吸し、大地の潤いを記憶している証』だ。」
新人: (心の声:いや、ただの断熱不足ですよ……)
ボス: 「よし、仕上げだ。この『段差がありすぎて、お年寄りが絶対につまずいて転ぶ境界線』をどう表現する?」
チーフ: 「『日常から非日常へと跳躍するための、意識的なストローク』です。段差は、『空間のヒエラルキーを肉体に刻み込むための、聖なるしきい』と呼びましょう。」
新人: (心の声:絶対、あとでバリアフリー改修の相談が来るやつだ……)
なぜ我々はポエムを詠むのか
土間は「泥汚れ」や「冬の冷気」といった、我々が一番恐れる「不便な野生」が家の中に入り込んでくる場所です。
だからこそ、難しい言葉で「これは豊かな暮らしなんだ」と思い込みたい。 「内と外が溶け合い……」と熱弁している間、脳内からは「掃除機がかけにくいザラザラした床」という現実が消去されています。
もはや一種の、自分たちを守るための魔法ですね。
まとめ
建築は、ポエムよりも「基礎の断熱」と「水勾配」でできています。
どれだけ素敵な言葉を並べても、冬に足が氷のように冷たければ、そこはただの修行場です。
もし我々が「大地の記憶」を語りだしたら、そっと「おしゃれなルームシューズのカタログ」を差し出して、現実に引き戻してあげてください。