我々は、単なる「床のないガランとした空間」のことを、なぜか「垂直方向に拡張する自由」と呼びたがります。
締め切り前、ボスのエナジードリンクが空になったときは、ただの大きな穴が「宇宙への入り口」に昇華される合図です。
ポエム会議:吹抜け編
とある設計事務所の深夜。 一級建築士のボスと、その部下たちが、翌日のプレゼン資料を前に頭を抱えていました。
ボス: 「……ボツだ。この資料、あまりにも不動産情報すぎる。なんだこの『明るくて開放感のある、大きな吹抜け』という、新築建売のチラシみたいな言葉は。」
【登場人物】
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ボス: 生活感を憎み、概念で白飯を食う所長。
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チーフ: 無茶振りをポエムに焼く、目がバキバキの魔術師。
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新人: 唯一の人間。心のツッコミが止まらない。
チーフ: 「すみません。つい、日当たりの良さを優先しました。では、『天光を地上へと引き込み、重力から解き放たれる、光の聖域』に変えましょうか?」
ボス: 「いいぞ。その調子だ。ついでに、この『2階の床を削りすぎて、寝室が激狭になった吹抜け』も格上げしろ。」
新人: 「いや、これ普通に部屋が足りないですよ。エアコンの効きも悪そうだし、1階のカレーの匂いが2階まで直撃しますよね?」
チーフ: 「(冷徹な目で)新人くん、それは匂いじゃない。『家族の営みがレイヤー状に重なり、気配が空間を循環するシンクロニシティ』だよ。寒さは、『大気のダイナミズムを肌で知るための洗礼』だ。」
新人: (心の声:いや、ただの断熱不足とスペース泥棒ですよ……)
ボス: 「よし、仕上げだ。この『高すぎて、一生電球が替えられそうにない照明の位置』をどう表現する?」
チーフ: 「『天空から降り注ぐ一筋の救い。それは、手が届かないからこそ価値がある不変の星』です。替えられないのは、『不変への挑戦』と呼びましょう。」
新人: (心の声:絶対、数年後に『暗いからなんとかして』って怒られるやつだ……)
なぜ我々はポエムを詠むのか
吹抜けは「高い電気代」や「溜まっていく高所のホコリ」といった、我々が一番恐れる「不合理な現実」が詰まった場所です。
だからこそ、難しい言葉で「これは贅沢なんだ、精神のゆとりなんだ」と思い込みたい。 「視線が抜けていき……」と熱弁している間、脳内からは「冬場の足元の冷え」という現実が消去されています。
もはや一種の、自分たちを守るための魔法ですね。
まとめ
建築は、ポエムよりも「空気の循環」と「掃除のしやすさ」でできています。
どれだけ素敵な言葉を並べても、1階のテレビの音が2階まで爆音で響けば、そこはただのうるさい家です。 もし我々が「空を切り取る」と語りだしたら、そっと「シーリングファンの性能」を確認して、現実に引き戻してあげてください。