建築基準法の採光規定1/7とセロトニンの脳科学

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建築基準法の採光規定1/7とセロトニンの脳科学——窓の大きさが心を左右するふしぎな関係

窓の小さい部屋にいると、なんだか気分が沈む。それ、気のせいじゃない。あなたの脳内物質が、実際に減っているかもしれません。——そう言ったら信じますか?

建築基準法では、住宅の居室に「床面積の1/7以上」の窓を設けるよう決められています。「建築基準法第28条」という法律です。でも「なぜ1/7なの?」と聞かれて答えられる人はほとんどいません。

この記事では、毎日浴びている「太陽の光」を入口にして、法律の数字の裏に隠された、脳内物質のしくみを解き明かします。

図解:太陽光が脳に届くまでの経路

太陽光が目から入り、視交差上核を経てセロトニン・メラトニンの分泌を調整する経路を示す図

太陽光(黄色の矢印=光の信号)は窓を通って目に入り、視覚情報とは別の経路で視交差上核(SCN)に伝わる。SCNはこの光信号をもとに体内時計を調整し、セロトニンとメラトニンの分泌量を切り替えている。

SECTION 01

法律で決まっている「窓の大きさ」

日本の建築基準法では、住む部屋の窓の大きさをこう決めています。

建築基準法 第28条/施行令第19条(居室の採光)

・住宅の居室:床面積の1/7以上(照明併用なら1/10まで緩和)
・幼稚園・小中高校の教室:床面積の1/5以上
・大学・専門学校の教室:床面積の1/10以上

たとえば14㎡の寝室なら、2㎡以上の窓が必要ということです。2023年の法改正では、床面で50ルクス以上の照明を設置すれば、1/10まで基準が緩められるようになりました。

「なぜ1/7なの?」「なぜ教室は1/5なの?」——法律の文章を読んでも理由は書いていません。ここから脳の話になります。

SECTION 02

光は「目」から脳に直接届いている

朝、太陽の光を浴びると目が覚める。これは気分だけの話ではありません。光は目から入り、視交差上核(しこうさじょうかく)という脳の部位に届きます。ここが体内時計の中心です(文部科学省, 第3章 健康なくらしに寄与する光)。

部屋が暗いと気分が沈むのは、気のせいじゃない。光の量が、脳内物質の量を決めているからだ。

体内時計はだいたい25時間周期で動いていて、24時間の地球の自転とは1時間ほどズレがあります。このズレを毎日リセットしているのが、朝の光です。光信号が視交差上核に届くと、トリプトファンというアミノ酸からセロトニンという脳内物質がつくられ始めます(文部科学省, 第3章 健康なくらしに寄与する光)。

セロトニンは日中の気分の安定や活動性に関わる物質です。光が足りないと、この生成がうまく進みません。窓の大きさを法律で決めているのは、結果的に、この光の量を確保する仕組みになっているとも言えます。ただし、これも法律の公式な立法根拠ではなく、筆者による解釈です。

SECTION 03

昼の光が、夜の眠りをつくっている

日中につくられたセロトニンは、そのまま消えてしまうわけではありません。夜になると、酵素のはたらきによってメラトニンという別の物質に変わります。メラトニンは眠気を引き起こすホルモンです(脳科学辞典「メラトニン」)。

つまり、昼にセロトニンの材料がしっかりつくられていないと、夜のメラトニンも足りなくなるということです。なお、高齢者を対象にした研究では、日中の光暴露が少ないとメラトニンの分泌量も低くなる傾向が報告されています(奈良県立医科大学の研究グループによる高齢女性を対象にした調査など)。ここから「昼の光の量が夜の眠りに関わる」という関係を一般的な傾向として読み取ることはできますが、年齢や個人差によって光への感受性は異なる点に注意が必要です。窓の大きさが「1/7」と決まっているのは、昼の活動だけでなく夜の眠りにもつながる話だった、というのは筆者による解釈です。

SECTION 04

教室の窓が大きい理由

建築基準法では、住宅は1/7、幼稚園や学校の教室は1/5以上と決まっています。住宅よりも、学校の方が厳しい基準です。

海外の学校を対象にした調査では、自然光を多く取り入れた教室の生徒の方が、テストの成績や出席率が良かったという報告があります(板硝子協会「窓の生理的・心理的効果とその魅力」, 2016, 海外文献の紹介として)。窓のない教室では欠席率が高くなる傾向も指摘されています。日本国内の生徒を対象にした検証ではないため、そのまま当てはめられるとは限りませんが、自然光と学習環境の関係を考える手がかりにはなります。

条文上の直接の理由は明記されていませんが、脳科学の視点で読むと「日中の覚醒度や集中力を保つために、より多くの光が必要だから」と解釈できます。ただし、これは法律を作るときの公式な根拠として書かれているわけではなく、ここでは筆者による解釈としてお伝えします。

SECTION 05

まとめ:窓の大きさは、脳内物質の量を決めている

この記事のポイント

・採光規定(1/7以上)は、太陽光が視交差上核(SCN)を経て脳内物質の生成に関わることと結び付けて解釈できる

・日中の光はセロトニンの生成に関わり、夜にはメラトニンに変わって眠りを促す

・教室の採光基準が住宅より厳しい(1/5)のは、海外の学校調査における出席率・成績向上の報告と関連づけて解釈できる

・法律と脳科学のつながりの一部は筆者による解釈であり、事実と解釈を区別して読むことが大切

建築基準法の窓の大きさは「お役所が決めた決まりごと」ではなく、太陽光と私たちの脳内物質の関係まで考えるとつながって見えてくる数字です。「なぜこの数字なの?」と問える人は、法律の本質を伝える力が格段に変わります。

参考・根拠資料

・建築基準法 第28条・建築基準法施行令第19条(国土交通省)

・文部科学省「第3章 健康なくらしに寄与する光 2 光の治療的応用——光による生体リズム調節」

・脳科学辞典「メラトニン」

・Obayashi, K. et al.(2015)”Lower Melatonin Secretion in Older Females” Journal of Epidemiology 25(1)※高齢女性を対象とした研究

・樋口重和「光とヒトのメラトニン抑制」国立精神・神経センター精神保健研究所

・板硝子協会 建築環境WG「窓の生理的・心理的効果とその魅力」(2016年1月)

・本記事における法律と脳科学の接続は、著者による学際的解釈を含みます。

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