
「用途」と「規模」のダブルチェック!!!
建物の安全と「内装制限」「直通階段」- 知っておきたい共通のチェックポイント
建物を建てたり、使ったりする上で、建築基準法は基本となる大切なルールです。
中でも、もしもの火災の時に私たちの命を守るための決まりごとは、本当にたくさんあります。
今回は、その中から特に気をつけておきたい二つのルール、
- 内装制限: 火事が起きた時、壁や天井が燃え広がりにくくして、避難する時間を少しでも長くするための内装材の決まり。
- 2つ以上の直通階段: 煙などで一つの階段が使えなくなっても、別のルートで外まで逃げられるようにするための階段の数の決まり。
これらを取り上げます。建物の安全の根幹に関わる、非常に大事なポイントと言えるでしょう。
内装の話と階段の話なので、普通は全く別のルールだと考えますよね。
でも、これらが「必要かどうか」を決める際には、案外、見落としやすい共通のチェックポイントがあるのです。
それは、「その建物が何に使われているか(用途)」と「どれくらいの大きさか(規模)」という二つの情報を、必ずセットで考えるということです。
どちらか片方だけで「大丈夫だろう」と判断すると、思わぬ落とし穴にはまる可能性があります。
この記事では、それぞれのルールの基本と、なぜ「用途」と「規模」の確認が共通して大切なのか、その理由を掘り下げていきます。
- 内装制限って何?どんな「用途」と「規模」だと関係してくるの?
- 2つ以上の直通階段はなぜいるの?どんな「用途」と「規模」の建物で必要?
安全な建物について考える上で、きっと役立つはずです。
まずは「内装制限」から。どんな条件で必要?「用途×規模」で確認!
では最初に、火災時の安全に直結する「内装制限」の話から始めましょう。(関連条文:建築基準法施行令第128条の4)
このルールは、内装材が火の回りを遅らせたり、有毒な煙の発生を抑えたりすることで、人々が避難するための貴重な時間を確保するために設けられています。
さて、どんな建物がこの制限の対象になるのでしょうか。ここでカギを握るのが、やはり「用途」と「規模」です。
どんな用途か? そして構造や規模は?
まず、法律でリストアップされている特定の用途(いわゆる特殊建築物)に注目します。
ただし、用途だけで決まるわけではなく、建物の構造(燃えにくさ)や規模(広さなど)も合わせてチェックします。
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特定の用途と、構造・規模による制限(令第128条の4 第1項第一号)
- 劇場や病院、ホテル、デパートといった、たくさんの人が出入りしたり、避難に助けが必要な方がいたりするような場所が主な対象です。
- しかし、「この用途だから絶対制限あり」というわけではありません。その建物の構造(耐火性能など)と、具体的な規模(客席の広さや特定の階の面積など)が、下の表の条件に当てはまるかどうか、そこまで見て判断します。
用途(法別表第一(い)欄) 構造区分 内装制限を受ける規模要件 (一)項(劇場、映画館、演芸場、公会堂、集会場) 1時間準耐火基準適合(特定主要構造部が耐火構造を含む) 客席の床面積の合計が 400㎡以上 1時間準耐火基準不適合(上記以外) 客席の床面積の合計が 100㎡以上 (二)項(病院、診療所※、ホテル、旅館、下宿、共同住宅、寄宿舎) 1時間準耐火基準適合(特定主要構造部が耐火構造を含む) 当該用途に供する3階以上の部分の床面積の合計が 300㎡以上 1時間準耐火基準不適合(上記以外) 当該用途に供する2階の部分の床面積の合計が 300㎡以上※病院・診療所は患者収容施設がある場合に限る その他の建築物 当該用途に供する部分全体の床面積の合計が 200㎡以上 (四)項(百貨店、マーケット、展示場、キャバレー、遊技場、飲食店、物品販売店舗 等) 1時間準耐火基準適合(特定主要構造部が耐火構造を含む) 当該用途に供する3階以上の部分の床面積の合計が 1,000㎡以上 1時間準耐火基準不適合(上記以外) 当該用途に供する2階の部分の床面積の合計が 500㎡以上 その他の建築物 当該用途に供する部分全体の床面積の合計が 200㎡以上 -
その他の特定の用途による制限(令第128条の4 第1項第二号、第三号)
- 次のような特殊建築物も、内装制限の対象として挙げられています。
用途とは別に、規模だけで制限がかかることも
さらに話は続きます。上で見たような特定の用途でなくても、建物が単純に「大きい」という理由だけで、内装制限の対象となるパターンもあるのです。
ここが見落としやすいポイントかもしれません。
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規模の大きさによる制限(令第128条の4 第2項、第3項)
対象建築物 内装制限を受ける条件 備考 階数が3以上の建築物 延べ面積 > 500㎡ 学校等の用途を除く 階数が2の建築物 延べ面積 > 1,000㎡ 学校等の用途を除く 階数が1の建築物 延べ面積 > 3,000㎡ 学校等の用途を除く
内装制限のチェック方法を整理すると…
つまり、内装制限が必要かどうかを知るには、
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まず「特定の用途」に当てはまるかをチェックし、当てはまれば「構造と規模」の条件も確認する。
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それとは別に、用途に関係なく「建物全体の規模(階数と面積)」で制限対象にならないかも確認する。
という、二つの側面からのチェックが求められます。
「特殊建築物だから制限あり」「小さい建物だから大丈夫」といった、片方だけの情報で判断するのは早計です。
「用途」と「規模」の両方を見て、はじめて正確な判断ができる。
これが内装制限を理解する上で、とても大切な考え方です。
次に「2つ以上の直通階段」。これも「用途×規模」がポイント!
続いて、安全な避難経路を確保するための「2つ以上の直通階段」について見ていきましょう。(関連条文:建築基準法施行令第121条)
もし火災で煙が充満して一つの階段が使えなくなっても、別の階段があれば逃げられますよね。
そのための、いわば避難ルートの保険のようなルールです。さて、どんな階にこの「保険」が必要なのでしょうか。
やはり、ここでも「用途」と「規模」が登場します。
このルールが関係するのは、「避難階以外の階」、つまり地上に直接出られない階(普通は2階以上や地下階)です。
どんな用途・規模の階で必要?
まず、その階が何に使われているか(用途)によって、原則として必要か、あるいは広さ(規模)によって必要かどうかが決まってきます。
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用途や広さで判断される階(令第121条第1項第一号~第五号)
- 多くの人が利用する劇場やデパート、あるいは避難に時間がかかる病院、ホテルなどが主な対象です。
- 用途によっては広さに関係なく必要だったり(例:劇場)、部屋の広さが一定以上だと必要になったりします(例:病院の病室、ホテルの客室)。
劇場・映画館・集会場など で客席がある階 - デパートなど(大型店舗※) で売場がある階 ※建物全体の店舗面積が1,500㎡を超える場合 病院・診療所・福祉施設など で病室・居室が 一定の広さ以上 の階 面積の基準あり ※緩和あり ホテル・旅館・共同住宅・寄宿舎など で客室・寝室等が 一定の広さ以上 の階 面積の基準あり ※緩和あり キャバレー・バーなど特定の遊興施設など で客席等がある階 ※小規模などの場合は不要になることも
用途とは別に、階数や規模だけで必要になることも
そして、ここでもう一つ。上で見たような特定の用途でなくても、階数が高い、あるいはその階自体が広いという「規模」の理由だけで、2つ以上の階段が必要になる場合があります。
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階数や広さで判断される階(令第121条第1項第六号)
上記以外の用途 で 6階以上 の階に 居室 がある ※小規模などの場合は不要になることも 上記以外の用途 で 5階以下 の階に 居室 があり、その 面積が一定以上 (避難階の真上か、それ以外かで基準が異なります) 面積の基準あり ※緩和あり
2つ以上の階段、チェック方法のまとめ
こちらも内装制限と考え方は似ています。
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まず「特定の用途」に当てはまるか、あるいはその用途で「一定の広さ」を超えているかを確認。
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次に、それ以外の用途でも「階数」や「その階の広さ」という規模の条件で必要にならないかを確認。
このように、順を追って確認していく必要があります。
特に気をつけたいのが、六号の規定です。
事務所や倉庫のような、普段あまり規制を意識しないような用途でも、階数が高かったり、フロアが広かったりすると、2つ以上の直通階段が求められることがあるのです。
「用途が事務所だから階段は一つでいいはず」と決めつけず、規模の条件も忘れずにチェックする。
これもまた、「用途」と「規模」の視点が欠かせない良い例と言えるでしょう。
まとめ:安全な建物のカギは「用途×規模」の視点にあり!
今回は建築基準法の中でも特に重要な安全ルール、「内装制限」と「2つ以上の直通階段の設置義務」を取り上げ、
その適用を考える上で共通の、そして非常に大切な考え方、「用途」と「規模」の両方をセットで見る必要性についてお話ししてきました。
これらのルールがなぜ「用途」と「規模」の両方を見ているのか。
それは、
- その建物がどんな風に使われ(用途)、どんな人たちが、どれくらい利用するのか?
- その建物がどれくらいの大きさで(規模)、火事が起きたら、どれくらい燃え広がりやすく、避難にどれくらい時間がかかりそうか?
という、建物のリアルな使われ方と物理的な特性からくるリスクを総合的に考えているからに他なりません。
そう考えると、用途と規模の両方を見る必要性が、より深く理解できるのではないでしょうか。
さいごまでお読みいただきありがとうございました。
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