Architecture / Exam Glossary
今年の課題に必要な構造計算はどれか?
ルート1〜3と許容応力度計算を整理する
二級建築士製図試験を受ける人へ
「許容応力度計算」「許容応力度等計算」「保有水平耐力計算」「限界耐力計算」……構造計算には複数の種類があり、名称が似ていて混乱しやすい。今回は、これら4種類の構造計算(と時刻歴応答解析)が何者で、今年の課題(木造3階建て)にはどれが必要なのかを整理していきたい。
結論から言うと、今年の課題に義務として必要な構造計算は「許容応力度計算(ルート1)」のひとつだけだ。
5種類の構造計算を整理する(令81条)
構造計算の種類は建築基準法施行令第81条に定められており、大きく5つに分かれる。建物の規模・高さに応じてどの計算が義務になるかが決まる仕組みだ。

5種類を簡単に説明すると、次のようになる。
- 時刻歴応答解析(令81条1項):高さ60mを超える超高層建築物のみ。地震波を用いた精密なシミュレーション計算。今年の課題とは関係ない。
- ルート3(保有水平耐力計算)(令81条2項一号イ):高さ60m以下の建物に選択適用できる、比較的高度な計算。地震時に建物が倒壊しない「粘り強さ」まで確認する。
- 限界耐力計算(令81条2項二号):特殊な構法や伝統的木造などで用いられる計算方法。任意で選択可能。
- ルート2(許容応力度等計算)(令81条2項一号ロ):ルート1の計算に加えて「建物のゆがみ(剛性率)」「建物の重心と剛心のズレ(偏心率)」まで確認する計算。高さ31m以下の建物に適用可能。
- ルート1(許容応力度計算)(令81条3項・令82条各号):柱・梁・耐力壁などの各部材に生じる力(応力度)が、許容できる限界(許容応力度)以下であることを確認する計算。法20条三号建築物(木造3階建てなど)に義務として適用される。
今年の課題に必要なのは「ルート1」
今年の課題「商店街に建つ併用住宅(木造3階建て・高さ16m以下)」は法20条1項三号建築物に該当する。三号建築物に義務付けられる構造計算は、令81条3項が定める次の計算だ。
令81条3項(法20条三号建築物に義務付けられる構造計算)
令82条各号(許容応力度計算)+令82条の4(屋根ふき材等)
これがいわゆる「ルート1」(一次設計)だ。具体的には次の3つを確認する。
| 確認項目 | 内容 | 条文 |
|---|---|---|
| 応力度の確認 | 各部材の応力度が許容応力度以下であることを確認 | 令82条一〜三号 |
| 使用上の確認 | 変形・振動で使用上の支障が起きないことを確認 | 令82条四号 |
| 屋根ふき材等 | 屋根・外壁が風圧に対して安全であることを確認 | 令82条の4 |
ルート1は「一次設計」とも呼ばれ、通常の地震(震度5強程度)で建物が損傷しないことを確認するレベルの計算だ。ここで言う「一次設計」とは通常の荷重・地震力に対して各部材が許容応力度内に収まることを確かめる計算のことで、ルート2・3で追加される「二次設計(大地震時に建物が倒壊・崩壊しないことを確認する計算)」はルート1には含まれない。
なぜルート2・3は不要なのか
ルート2(許容応力度等計算)やルート3(保有水平耐力計算)は、今年の課題規模では義務ではなく、任意で選択することは可能だ。
これらが必要になるのは、法20条二号建築物(木造で高さ13mを超えるものや軒高9mを超えるものなど)に該当する場合だ。今年の課題(木造3階建て・高さ16m以下)は三号建築物に該当するため、ルート2・3は義務ではない。
整理するとこうなる
法20条三号建築物(木造3階建て)→ 令81条3項 → ルート1(義務)
法20条二号建築物(高さ16m超または4階建て以上の木造など)→ 令81条2項 → ルート2・ルート3(義務)
令和7年4月の法改正で「高さ16m以下・3階以下」の木造はルート1で設計可能な範囲に統一された。同時に二級建築士が設計できる木造建築物の範囲も高さ16m以下・3階以下に拡大された(改正前は高さ13m以下・軒高9m以下)。今年の出題が木造3階建てになっているのは、この改正で二級建築士の業務範囲が実務上広がったことと連動している。
ルート2で必要な「剛性率・偏心率の確認」とは、各階の硬さのバランスや、建物の重心と剛心(硬さの中心)のズレを計算することだ。今年の課題ではこれは義務ではないが、「計画の要点等」で耐力壁のバランス配置を説明するときに「偏心が生じないよう各方向に耐力壁をバランスよく配置した」という記述に、この考え方が自然に生きてくる。
壁量計算改正との関係
令和7年4月の法改正により、旧来の「軽い・重い屋根」区分による壁量計算(旧令46条の表)は廃止された。改正後の壁量計算は次の3つの方法から選択する形になっている。
| 方法 | 内容 | 今年の課題 |
|---|---|---|
| ①算定式 | 建物の荷重実態(太陽光・外壁仕様・階高等)に応じた算定式で計算 | 選択可 |
| ②早見表 | 日本住宅・木材技術センター公開の早見表から読み取る | 選択可 |
| ③構造計算(ルート1) | 許容応力度計算で安全性を確認 → 壁量計算を省略できる | ★今年の課題はここ |
今年の課題(木造3階建て)はルート1(許容応力度計算)が義務付けられているため、方法③に該当する。許容応力度計算を行う場合は壁量計算を省略できるのが改正後のルールだ。
つまり今年の課題では「軽い・重い屋根」の旧係数を使った壁量計算は行わず、許容応力度計算で構造安全性を確認する、という流れになる。ただし耐力壁をバランスよく配置するという設計の考え方は変わらず、「計画の要点等」での記述に活きてくる。
試験での活用:計画の要点等での記述
試験では許容応力度計算書を提出する必要はない。しかし「なぜその構造計算が必要な建物なのか」を理解した上で設計しているかどうかが、「計画の要点等」の記述の質に直結する。
記述例①:構造計算の根拠
「本建物は木造3階建てであり法20条三号建築物に該当するため、実務では令81条3項に基づく許容応力度計算(ルート1)による構造安全性の確認が必要になる。」
記述例②:耐力壁配置の根拠
「耐力壁(筋かい)は各階・各方向に偏りなく配置し、地震力・風圧力に対する偏心が生じないよう計画した。実務では許容応力度計算により各部材の安全性を個別に確認する必要がある。」
まとめ
構造計算は令81条に5種類規定されている。時刻歴応答解析・ルート3(保有水平耐力計算)・限界耐力計算・ルート2(許容応力度等計算)・ルート1(許容応力度計算)。
今年の課題(木造3階建て・高さ16m以下)は法20条三号建築物。令81条3項により、許容応力度計算(ルート1)が義務付けられる。
ルート2・3は今年の課題には義務ではない(任意で行うことは可能)。これらが義務になるのは法20条二号建築物(高さ16m超または4階建て以上の木造など)から。
令和7年4月の改正で旧壁量計算(軽い・重い屋根区分)は廃止。ルート1(許容応力度計算)を行う場合は壁量計算を省略できる。
試験では計算書提出不要だが「法20条三号建築物=ルート1が義務」という位置づけを理解した記述が評価につながる。
References
- e-Gov法令検索「建築基準法 第20条(構造耐力)」 elaws.e-gov.go.jp
- e-Gov法令検索「建築基準法施行令 第81条・第82条(構造計算)」 elaws.e-gov.go.jp
- 国土交通省「令和4年改正 建築基準法について」 mlit.go.jp
- 国土交通省「木造建築物における省エネ化等による建築物の重量化に対応するための必要な壁量等の基準について」 mlit.go.jp
- 公益財団法人日本住宅・木材技術センター「壁量等の基準(令和7年施行)設計支援ツール」 howtec.or.jp
※本記事は2026年7月時点の公開情報をもとに作成しています。実際の出題内容・設計条件は、必ず試験当日の問題文と公益財団法人建築技術教育普及センターの公式発表をご確認ください。