たった一文字「等」に
込められた、法律の設計思想
建築基準法を読み解くと見えてくること
建築基準法を読んでいると、必ずといっていいほど目に入る一文字がある。「等」だ。
「建築主事等」(法第7条第5項)、「自動車車庫等」(施行令第115条の4)。数えきれないほど繰り返し登場するこの一文字は、単なる曖昧な言い回しではない。そこには、長く使われ続ける法律を成り立たせるための、明確な意図が隠れている。
ここでは、「等」という一文字に込められた4つの役割を、実際の条文とあわせて整理してみたい。
列挙の限界を、あらかじめ補う
建物を構成する要素や用途をすべて条文に書き出そうとすれば、必ずどこかに漏れが生じる。「等」を添えることで、明示した項目と同種・類似のものを解釈上まとめて拾い上げることができる。
未来の変化に、備える
建築基準法は1950年(昭和25年)の制定以来、建築技術・建材・工法の変化に合わせて幾度も改正されてきた。制定時に存在しなかった新しい仕組みが登場しても、「等」があることで、そのつど条文そのものを書き換えなくてもある程度は柔軟に対応できる余地が生まれる。
最重要ポイント
「これは例示です」というサイン
日本の法令ドラフティングには、限定列挙(それ以外を含まない)と例示列挙(それ以外も含みうる)を明確に書き分ける慣行がある。「等」の有無を比べると、その違いがよく分かる。
「主要構造部 壁、柱、床、はり、屋根又は階段をいい…」
「建築主事等は、前項の規定による検査をした場合において…」
前者は「壁・柱・床・はり・屋根・階段」の6つに限定される、いわゆる閉じたリストだ。一方、後者の「等」は、この列挙が例であって、これに限らないことを示す明示的な合図として機能している。「等」がない条文は、原則として列挙されたものだけに限定して読まれる。
現場に、判断の余白を残す
建築基準法は建築確認など行政実務と密接に結びついている。個々の建築物や状況は千差万別であり、「等」を挟むことで、特定行政庁や指定確認検査機関が個別の事案に応じて適切に解釈・裁量できる余地を残している。
「等」は曖昧さではない。
変化を前提にした、法律の柔軟設計だ。
⚠ 「等」は便利だが、曖昧さと表裏一体
「等」が具体的にどこまでを含むのかは、条文の文言だけでは判然としないことが多い。そのため実務では、国土交通省の告示・通達(技術的助言)や逐条解説書によって、その範囲が補足的に説明されるのが通例だ。建築士試験や実務の現場でも、「この条文の『等』には何が含まれるか」がしばしば論点になる。
「等」というたった一文字には、漏れを防ぎ、未来の変化に備え、これが例示であることを示し、現場の判断に余地を残す。この4つの役割が同時に込められている。
条文を読むとき、この一文字を単なる曖昧な表現として読み飛ばすのではなく、「なぜここに『等』が置かれているのか」を意識してみると、法律という仕組みの奥行きが少し違って見えてくるはずだ。
参考文献・一次情報
- 建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号) e-Gov法令検索
- 建築基準法施行令 第115条の4(国土交通省 関連資料)
- 個別の条文解釈・運用の詳細は、国土交通省の告示・通達(技術的助言)を参照