防災庁とは?建築士が読み解く「災害対応の司令塔」

こんにちは。いしいです。

まわりの人から「防災庁ってニュースで見たけど、結局なにが変わるの?」と聞かれたので、今日はこの話をします。

私は元・確認検査員として建築確認の実務にずっと関わってきました。その立場から見ても、日本は災害の多い国です。地震、台風、大雨、火山――。それにもかかわらず、これまで日本の防災対応は複数の省庁がそれぞれ分担して担う体制でした。

何が決まったのか

2026年7月13日、参議院本会議で「防災庁」を設置するための法律が可決・成立しました。政府は2026年11月の発足を目指しています。

一言でまとめると:

「災害対応の司令塔を、一つにまとめる」

なぜ新しい役所をつくるのか

これまで内閣府の防災担当が中心を担ってきましたが、実際の対応は各省庁がそれぞれ担当していました。学校にたとえるなら、火事が起きたときに「消火は先生A、避難誘導は先生B、救急対応は先生C」と、担当が分かれて動いていたようなものです。連携が取れていれば問題ありませんが、有事のときほど連携ミスは命取りになります。

防災庁は、内閣府防災担当を格上げし、復興庁やデジタル庁と同格の組織になります。専任の閣僚(防災大臣)を置き、各省庁に対して「勧告権」を持たせます。各省庁は、この勧告を尊重する義務を負います。従来の「お願いベース」の調整から、一歩踏み込んだ体制に変わります。

防災庁設置による体制変化の比較図

図:防災庁設置による体制の変化(筆者作成)

実務目線で気になるポイント3つ

建築確認の現場で避難規定や耐震基準などと向き合ってきた立場から、今回の防災庁で特に注目すべき点は次の3つです。

1

「起きてから」より「起きる前」に重心を置く

防災庁が重点を置くのは「事前防災」です。地震や豪雨などの自然災害が頻発・激甚化する中で、平時から被害を抑える取り組みを進めます。日常と災害時を切り分けず、普段使うものや仕組みを災害時にも役立てる「フェーズフリー」の考え方も広げていきます。

建築基準法の避難規定や耐震基準は、そもそも「事前防災」を法制度化したものです。防災庁の重点方針は、建築行政がこれまで担ってきた考え方と方向性が一致しています。今後、避難経路の考え方や既存不適格建築物の耐震化施策に、国レベルの「フェーズフリー」の発想が反映されてくる可能性があります。

2

地方に拠点をつくる

南海トラフ地震や日本海溝・千島海溝地震のような海溝型の巨大地震に備え、地方機関の「防災局」を設置します。2027年度以降に2カ所設置する方針です。防災局と自治体、国の出先機関が平時から連携し、災害発生時に迅速に対応できる体制をつくります。

被災するのは常に地方です。地方機関を持つ体制は、指定確認検査機関や特定行政庁との連携という実務レベルの話にも波及する可能性があります。

3

人を育てる仕組みも用意する

防災技術の研究や人材育成を担う「防災大学校(仮称)」も設置できるようになります。政府や自治体の職員だけでなく、民間の専門家育成も想定されています。

組織をつくるだけでなく、そこで働く人材を育てる仕組みまでセットで用意している点は、腰を据えた取り組みであることの表れです。建築士や確認検査員のような実務者が「防災大学校」の講師・研修対象として関わる余地も、今後出てくるかもしれません。

建築実務への影響(実務メモ)

実務メモ

防災庁設置法そのものは組織法であり、建築基準法の条文を直接改正するものではありません。ただし、防災大臣の「勧告権」は関係省庁(国交省を含む)に及ぶため、避難規定・耐震基準・防火区画といった建築基準法上の個別の規定の運用方針に、中期的に影響が及ぶ可能性があります。なお「防災関連規定」という括りは建築基準法上の正式な区分ではなく、便宜的な表現である点はご留意ください。現時点で条文改正の具体的な動きは確認されていません。続報が出次第、このブログでも取り上げます。

いしい的まとめ

災害は、起きてから対応するより、起きる前にどれだけ備えられるかで結果が大きく変わります。今回の防災庁は、その「事前の備え」を国全体で進めるための体制づくりです。

11月の発足まではまだ準備段階ですが、避難規定や耐震基準など建築基準法の個別規定の運用にも今後じわじわ影響してくる可能性がある話です。実務に近いところにいる方ほど、続報をチェックしておく価値があります。

それでは、また次回。いしいでした。