こんにちは。いしいです。
今日はちょっと面白いニュースを見つけたので、一緒に読み解いていきましょうか。
テーマは「トンネル工事の重機が、自分で道を選んで走るようになった」という話です。
地味に聞こえるかもしれませんが、僕はこれ、結構本質的な話だと思っています。
今回取り上げるのは、西松建設が2026年7月16日に出した一次情報(プレスリリース)です。
出典:西松建設「山岳トンネル施工の自動運転システムを高度化」(2026年7月16日)
黒い見出し=ニュースの事実そのものの解説/赤い見出し=背景・考察・僕の私見
何が起きたのか、まず結論から
結論から言うと、こういうことです。
山を掘るトンネル工事で使う「ホイールローダ」という重機が、自分で一番良い道を選んで走れるようになった。
それだけ聞くと「へえ」で終わってしまいそうですが、これ、実は「人がやっていた判断を、機械に任せる」という、けっこう大きな転換点なんですよ。
これまでは、人があらかじめ用意した道の中から選んでいました。
これからは、重機自身が周りの状況を見て、その場で道を作る。
この違い、地味に効いてくるんです。順番に見ていきましょう。
そもそも「山岳トンネル工事」って、どんな現場?
山にトンネルを通すとき、山の中をどんどん掘り進めていくわけですが、掘った土や岩は当然、外に運び出さないといけませんよね。
この「掘った土や岩を運び出す作業」のことを、業界では「ずり出し」と呼びます。
専門用語って最初は取っつきにくいと思うんですけど、こういうのは知っておくと一気に記事が読みやすくなるので、ちょっとだけお付き合いください。
実務メモ
「ずり」は掘削で出た岩石・土砂のこと。この「ずり」を、切羽(きりは=掘っている最前線)からクラッシャ(破砕機)まで運ぶ。これが今回自動化された作業です。
主役はホイールローダという重機です
ホイールローダというのは、大きなショベルが前についた、タイヤ式の重機のことです。
土をすくって運ぶ、いわば現場の働き者ですね。
このホイールローダが、トンネルの中を何度も往復して、掘った岩や土をクラッシャまで運ぶ。
その距離は、最大で約100メートル。僕も最初にこの数字を見たとき、意外と長いなと思いました。
実はこれ、いきなり出てきた話じゃないんです
ここ、意外と見落とされがちなんですけど、大事なポイントなので触れておきます。
西松建設は2025年3月の時点で、山岳トンネル技術開発拠点「N-フィールド」というところで、ずり出し作業に必要な複数の重機を自動運転化する実証実験に、すでに成功しているんですよね。
切羽まで走る、岩や土をすくう、クラッシャまで運ぶ、また戻る。この一連の往復動作の自動化は、その時点でもう実現していたわけです。
ただ、そこにはひとつ、まだ残っていた課題がありました。
道は事前にいくつか用意されていて、その中から人間が選ぶ必要があったんです。
トンネルを掘り進めると、岩や土がある場所は毎回変わりますから、そのたびに人が選び直すのは、思った以上に負担が大きかったわけです。
今回のニュースは、この「人が選ぶ」という最後のひと手間をなくした、いわば2025年からの続編だと思ってもらうと、すんなり理解できると思います。
今回、何ができるようになったのか
新しいシステムでは、人間が道を選ぶ作業そのものがなくなりました。
仕組みを整理すると、こんな感じです。
- LiDAR(ライダー)というセンサで、重機は今自分がどこにいるかを正確に把握する
- 同時に、運びたい岩や土、クラッシャの位置も読み取る
- その情報をもとに、一番良い道を瞬時に自分で作り出す
- これを動くたびに繰り返して、常に最新の状況に合わせていく
図:ホイールローダの自律ルート生成の流れ(本記事作成にあたり独自に図解)
僕なりにイメージで説明すると、カーナビが地図の中から道を選ぶんじゃなくて、その場で周りを見渡しながら、毎回ゼロからルートを描き直している感じ、と言えば伝わりますかね。
しかも、カーブや障害物があればアクセルとブレーキも自分で調整しますし、「ここには入っちゃダメ」というエリアを指定すれば、そこを避けて道を作ることもできる。
これによって、ほかの重機と同じ現場で同時に動いても、安全性がちゃんと保てるようになった、という仕組みです。
なぜ、ここまで自動化を進めるのか
背景にあるのは、やっぱり建設業界の人手不足です。
トンネル工事って、暗くて狭い場所での重労働ですから、働く人を確保するのが年々難しくなっている。僕から見ても、これはもう構造的な話だと思います。
重機が自分で判断して動けるようになれば、必要な人の数を減らせますし、人が危険な場所に近づく機会そのものも減るので、安全性も上がる。
西松建設はこの一連の取り組みを「Tunnel RemOS(トンネル リモス)」というシステムとして進めているそうです。
これからの見通し
図:西松建設の発表内容をもとに作成したロードマップ
元検査員として、ちょっと気になったこと
ここからは、僕個人の視点で話しますね。
確認検査の実務をやっていた身から見ると、この手の無人化・自動化施工には、必ず「じゃあ最終的な安全性は誰が担保するの?」という論点が出てくるんです。
オペレータが道を選ばなくなるということは、判断の主体が人からシステムに移るということですから。今後は、施工計画書や施工体制台帳のなかで自動運転システムをどう位置づけるか、万が一事故が起きたときに責任の所在をどう整理するか、というあたりが実務上の次の論点になってくるんじゃないかと、僕は考えています。
結局、責任は誰が取るのか
ここ、問いを立てたままにするのはフェアじゃないので、僕なりの見立てを書いておきます。
自動化・AIが進めば進むほど、この問いは避けられずに前面に出てくる、というのが僕の実感です。理由はシンプルで、判断の主体は機械に移っても、法律上の責任主体は今のところ「人」か「法人」にしか帰属できないからです。判断はシステムがしているのに、責任は人に残る。この非対称をどう埋めるかが、自動化全般に共通する構造的な問題なんですよね。
実はこれ、僕らの業界ではもう一度答えが出ている論点でもあります。
構造計算プログラムを思い出してもらうと分かりやすいんですが、計算自体はソフトウェアが自動でやっています。それでも、大臣認定プログラムという仕組みが整備された上で、最終的には建築士法第20条に基づいて建築士本人の記名が要求されますよね(2021年9月の建築士法改正で押印の実務要求は廃止されましたが、記名義務そのものは元々あったものです)。「作業は自動化されているのに、責任の所在を示す行為は人に残る」という構造は、今回のトンネル自動化とまったく同じパターンです。自動化は作業を代替しても、責任までは代替してくれない。これは僕たちの世界ではすでに答えが出ている話なんです。
もうひとつ参考になるのが、自動運転車の議論(SAEレベル分類)です。自動化のレベルが上がるほど、責任の重心はドライバーからシステム設計者・メーカー側へ移っていく傾向があります。トンネル施工の自動化も、同じ軌道をたどるはずです。今回のように「人がルートを選ばなくなる」段階に入ると、施工会社や機器メーカーが担う責任の比重が増えていく。ただし、それを明確に規定した法制度は、まだ追いついていません。国交省の自動化ガイドラインも、今のところ「人による最終確認」を残す設計になっています。
今、議論されている方向性は、大きく3つあると僕は見ています。
①人の最終確認義務を残す(今の確認検査制度に近い発想)、②製造物責任・システム提供者責任を強化する(操作者ではなく作った側に責任を寄せる)、③無過失保険・補償スキームで個人への責任追及自体を薄める、という3方向です。今回のニュースだけを見ると小さな技術進化に見えますが、この3方向のどれに進むかという制度設計の話にまで、実はつながっているんですよね。
まとめです
今日の話を一言でまとめると、こういうことになります。
「重機が、自分の目で見て、自分の頭で考えて、道を選ぶようになった。ただし、責任まで機械に任せられる制度には、まだなっていない」。
2025年の実証実験から一歩ずつ積み上げてきた技術が、また一段階進化した。僕から見ると、そういう話でした。
人が道を用意してあげる時代から、重機自身が状況を判断する時代へ。技術は着実に前へ進んでいます。
一方で、その判断に対する責任を誰がどう負うのかという制度設計は、技術の進化ほどには進んでいません。僕たちの目に触れにくいトンネル工事の現場は、その両方が同時に進行している、面白いフィールドだと思います。
今日はこのあたりで。また次回お会いしましょう。
出典:西松建設「山岳トンネル施工の自動運転システムを高度化」(2026年7月16日発表)
関連:西松建設「ずり出し作業に必要な複数重機を自動運転化」(2025年3月21日発表)