令和8年10月11日(日)実施の一級建築士「設計製図の試験」の課題は「ホテル」に決まりました。今年の留意事項でもっとも注目すべきは、次の一文だと考えています。
昨年(令和7年・課題「庁舎」)の留意事項1つ目は「敷地の周辺環境に配慮して計画する。」というシンプルな一文でした。今年はそこに「既存建築物の現状保存」が明確に加わっています。この違いは小さくないはずです。
1. 「現状保存」は、単なる背景情報ではなさそうです
結論から言うと、今回の「既存建築物の現状保存」は、計画そのものを左右する条件として出てくる可能性があると見ています。断定はできませんが、そのつもりで読んでおくと安心です。
これまでの敷地条件にも「既存樹木」や「隣地の状況」はよく登場してきました。しかし「既存建築物」という、簡単には動かせない存在が名指しされたのは、昨年の留意事項と比べても明確な変化です。ここから、次のような設計上の論点が想定できます。
- ✓敷地の一部に、解体不可の既存建築物が明示される可能性
- ✓既存建築物を解体せずに残したまま、新築のホテル棟をどう配置するか
- ✓既存建築物の意匠・スケールと、新築ホテルをどう関係づけるか(調和させるか、あえて対比させるか)
- ✓既存建築物を動線やアメニティとして活かすのか、そのまま残すだけにするのか
2. ゾーニング・動線計画への影響
結論はシンプルで、既存建築物が主要動線の近くにある想定で、宿泊客・サービス・外来客の動線がどう組み立てられるかがポイントになります。ホテルはもともと、パブリックゾーンと宿泊部門という性格の違う空間を一つの建物に共存させる用途です。そこに既存建築物という制約が加わると、動線計画の難度は一段上がります。
- ✓既存建築物を避けながら、宿泊客・サービス・外来客それぞれの動線を無理なく通せているか
- ✓既存建築物の周りにできる外部空間(中庭、通路)を、動線やアメニティとしてうまく使えているか
- ✓車寄せ・荷捌きなどのサービス動線が、既存建築物のせいで不自然に迂回していないか
3. 断面計画・構造計画への波及
結論として、既存建築物との距離や高さの関係は、断面図での整合が問われるポイントになりそうです。留意事項では構造耐力や経済性、スパン割りへの配慮も求められており、既存建築物が近いとその検討がひと手間増えます。
- ✓既存建築物との離隔距離、施工中の近接影響(掘削・振動)への配慮
- ✓既存建築物の高さ・軒線とのバランス
- ✓大空間(宴会場等)と客室階のスパン切り替えを、既存建築物との位置関係の中でどう成立させるか
4. バリアフリー・省エネ・CO2削減・セキュリティとの関係
これらのキーワードも、バラバラに「配慮しました」と書くよりも、「既存建築物を残す」という条件と結びつけて説明できると、説得力が増しそうです。
- ✓既存建築物と新築部分をつなぐ経路のバリアフリー動線
- ✓既存建築物のまわりの日影・通風を活かした新築部分の省エネ計画
- ✓既存建築物と新築ホテルの境界に引くセキュリティライン
5. 昨年までの留意事項との比較で見えること
留意事項の他の項目——「バリアフリー、省エネルギー、二酸化炭素排出量削減、セキュリティ等」「明快な動線計画」「構造耐力上の安全性と経済性」「設備の適切な計画」——は、過去の課題でも繰り返し使われてきた定型的な表現です。その中で「既存建築物の現状保存」だけが、今年新たに加わった一文だと見ています。
定型文の中に埋もれず、あえて名指しで加えられたという点で、この一文は今年の課題の性格を最も強く反映している可能性があります。設計条件を読み込む際は、他の項目以上に注意して扱う価値があると考えます。
「既存建築物の現状保存に配慮して計画する」——短い一文ですが、ここをどう読み解くかが、ゾーニング・動線・断面のすべてに波及する条件だと考えています。