建築基準法86条の7とは?既存不適格の緩和「4パターン」を条文構成から読み解く
既存不適格建築物を増築・改築しようとするとき、必ず参照することになるのが建築基準法86条の7(既存の建築物に対する制限の緩和)です。
実務者でも「なんとなく増築の緩和規定」というくらいの理解で済ませてしまっていることが多い条文ですが、構造を整理すると、実は緩和のパターンが4つに分かれていることが見えてきます。
今回は、法86条の7を4つの項(1項〜4項)に分解し、それぞれがどんな場面・どんな工事種別に対応した緩和なのかを整理します。
法86条の7 = 緩和パターンが4つある条文
法86条の7は見出しの通り「既存の建築物に対する制限の緩和」を定めた条文です。中身をよく見ると1項から4項まであり、それぞれが独立した緩和の適用場面を定めています。
つまり、「既存不適格建築物にどんな工事をするか」によって、参照すべき項が変わってくるということです。4つの項に分けて見ていくと、1〜3項は「増築等」というひとつのグループ、4項だけが「移転」という別枠のグループであることがわかります。

1項
増築等グループ
増築等の基本パターン
1項は、既存不適格建築物に対して増築・改築・大規模の修繕・大規模の模様替(これらをまとめて「増築等」と呼びます)を行う場合の基本ルールです。
本来なら増築等をする際は現行法に適合させる必要があります(法3条3項3号)。
しかし政令で定める一定の範囲内であれば、既存不適格のまま増築等を行うことができます。この「一定の範囲」の具体的な数値基準は政令137条の2〜137条の12に定められています。増築後の床面積が基準時の1.2倍を超えないこと、容積率・建蔽率の規定に適合すること、といった条件が並んでいるのはこのためです。
具体例
既存不適格の店舗兼住宅に小規模な増築をするケースが典型例です。増築部分の面積が基準時の延べ面積の1.2倍以内に収まっていれば、既存部分まで現行の容積率規定などに合わせ込む必要がなくなります。
2項
増築等グループ
独立部分が2つ以上あるときのパターン
2項は、1つの建築物の中に「独立部分」が2つ以上ある場合の緩和です。
独立部分とは、簡単に言えば構造上・避難上、実質的に別の建築物とみなせる部分のことです(詳細は令137条の13、14)。増築等をするのが一部の独立部分だけであれば、増築等をしない他の独立部分にまで現行法を遡及適用させる必要はない、というのが2項の考え方です。工事する範囲としない範囲を切り分けて緩和を考える、という発想を持つとイメージしやすくなります。
具体例
エキスパンションジョイントで構造的に分離された2棟が渡り廊下でつながっている複合建築物で、片方の棟だけを増築するケースが該当します。増築しない棟側は、その独立部分だけを見て既存不適格のままでいられるかどうかを判断できます。
3項
増築等グループ
増築等をする部分以外の既存部分に対するパターン
3項も「工事する部分」と「工事しない既存部分」を分けて考える緩和です。2項が独立部分単位の話であるのに対し、3項はシックハウス対策(クロルピリホス・ホルムアルデヒドに関する技術的基準)に関する遡及免除を定めています。
政令で定める基準は法28条の2第3号の基準(法20条の7〜20条の9に規定する技術的基準に係る部分)に限定されており、増築等をする部分以外の居室にまでシックハウス対策の現行基準を遡及させないという内容です。
具体例
既存の住宅の一部を増築する際、増築部分には現行のシックハウス対策基準(内装制限や換気設備の基準)を満たす必要がありますが、増築しない既存の居室部分にまで同じ基準を遡及させて改修を求められることはない、というイメージです。
4項
移転グループ
移転のパターン
見落とされがちですが、法86条の7には「移転」に関する緩和も定められています。それが4項です。
政令で定める範囲内で建築物を移転する場合、法3条3項3号・4号の規定にかかわらず、建築基準法令の規定は適用しないとされています。1〜3項が増築等を対象にしているのに対し、4項は移転だけを対象にした独立の緩和規定です。
ポイント
移転の場合は、他の増築等と比べて既存不適格を維持できる条件のハードルがかなり低く設定されています。曳家などで建物をそのまま移動させるケースを想像すると、なぜ緩やかな扱いになっているのか納得しやすいはずです。
まとめ
| 項 | 対象となる工事 | 緩和の考え方 |
|---|---|---|
| 1項 | 増築等(増築・改築・大規模修繕・大規模模様替) | 一定規模以下なら現行法を遡及させない基本パターン |
| 2項 | 同上(独立部分が2以上ある建築物) | 工事しない独立部分には遡及させない |
| 3項 | 同上(既存部分の技術基準) | 工事しない既存部分の特定基準に遡及させない |
| 4項 | 移転 | 移転単独の緩和で、条件のハードルが低い |
法86条の7を「増築のときの緩和条文」とだけ覚えていると、4項の移転パターンが抜け落ちてしまいがちです。
4つの項がそれぞれ何の工事種別・どんな場面に対応しているのかを押さえておくと、既存不適格建築物の相談を受けたときに、どの項から検討を始めればよいかが整理しやすくなります。