いしいさんが読む、今日の建築ニュース10選|熊本地震1週間・免震装置と応急危険度判定を読み解く(2026/8/4)

こんにちは、いしいさんです。建築基準法まわりの情報を発信しています。今日も朝からニュースを漁ってきたので、10本まとめました。「へぇ〜」で終われるネタと、業界全員が向き合うべきネタが混ざってますが、特にトップ2つは他人事では済まされない話です。熊本地震からちょうど1週間、政府が激甚災害の指定を閣議決定した日でもあるので、特集はそこを掘り下げています。順番に行きましょう。

FEATURE 01

震度7に耐える設計だった庁舎の、免震装置が壊れた

熊本県八代市の市庁舎は、2016年の熊本地震で被災した旧庁舎に代わって2022年に建て替えられた、免震構造の新しい建物でした。ところが7月28日の地震で、地下1階にある免震装置の一部が損傷し、立ち入りが制限される事態になっています。八代市長は自身のスマホで撮った損傷部分の写真を公開していて、装置のバネに大きなずれが生じている様子が確認できます。

日経クロステックが7月30日に現地取材したところによると、免震部分のエキスパンションジョイントが複数箇所で破損していて、建物には数十センチメートルの残留変位が生じている可能性があるとのことです。震度7クラスの揺れに耐える想定で設計されたはずの建物が、実際の地震でどこまで性能を発揮できたのか、専門家による検証がこれから本格化する局面だと思います。

八代市長(朝日新聞の取材より)
揺れや衝撃を分散するバネに大きなずれが生じている

出典:日経クロステック朝日新聞

2022
建て替え竣工年
数十cm
推定される残留変位
地下1
損傷箇所
6強
八代市の観測震度
法解説メモ|建築基準法20条(構造耐力)と12条(定期報告制度)

免震構造は20条に基づく構造計算(多くは大臣認定・構造計算適合性判定の対象)で、大きな地震動を想定した性能を確認したうえで建てられます。ただし、それはあくまで計算上の想定であって、実際の地震でどこまで機能したかは別問題です。しかも免震装置は12条の定期報告でも劣化の兆候を捉えにくい部位で、平常時の点検と、地震直後に行う臨時の安全確認とでは見るべきポイントがまったく違います。今回のケースは、その両方の限界が同時に表に出た形だと僕は見ています。

FEATURE 02

「応急危険度判定」は、実は建築基準法の制度じゃない

熊本地震の発生翌日、7月29日から宇城市と氷川町で始まった「応急危険度判定」は、8月に入って八代市、芦北町、宇土市、美里町、嘉島町へと対象が広がっています。資格を持った行政職員や建築士が、被災した建物の傾きや破損を目視で調べて、危険・要注意・調査済を赤・黄・緑の紙で示していく作業です。国交省のまとめでは、8月3日15時時点で公営住宅134団地に一部損壊等の被害が確認されていて、エレベーターの閉じ込めも32件発生しましたが、こちらは全件救出済みとのことです。

実はこの判定、名前が紛らわしいのですが建築基準法に基づく法定の制度ではありません。全国被災建築物応急危険度判定協議会(事務局:一般財団法人日本建築防災協会)が定めた要領に沿って、都道府県や市町村の判断で実施される仕組みです。罹災証明のための被害認定調査とも別物で、あくまで余震による倒壊など二次被害を防ぐための応急的な目安づけにすぎません。この違いを知らないまま「役所のお墨付き」だと受け取ってしまう人が多いところに、僕は制度周知の課題があると思っています。

埼玉県(応急危険度判定の説明ページより)
地震発生後の二次災害防止のためにおこなうもの

出典:国土交通省NHK埼玉県

7市町
判定を実施中の自治体(拡大中)
134団地
一部損壊等の公営住宅
32
エレベーター閉じ込め(全件救出済み)
法解説メモ|建築基準法8条(維持保全の努力義務)

8条は所有者に対して建築物を常時適法な状態に維持する努力義務を課していますが、これは平常時を想定した規定で、被災直後の緊急対応を直接カバーするものではありません。応急危険度判定はその隙間を埋めるために積み上げられてきた実務上の運用であって、法律の裏付けが薄い分、自治体ごとの実施判断や体制でスピードにばらつきが出ます。今回、対象自治体が7月29日から8月に入るまで段階的にしか広がっていない背景にも、この制度の性格が関係していると思います。

今日のひとこと

八代市庁舎の話も応急危険度判定の話も、平常時の制度が非常時にそのまま機能するわけじゃないという点でつながっていると思うんですよ。20条や12条は平時の基準として機能していても、震災直後の数日間をどう埋めるかは、結局そのつど現場が判断を積み重ねるしかない。制度と現実のギャップを埋める役目は、今日もどこかで誰かが担っているはずです。

短報ピックアップ

今日いちばん気になったニュース
熊本地震を激甚災害に指定へ、本日200億円超の予備費使用を閣議決定

高市首相は8月3日に被災地を初めて視察し、地域を限定しない「本激」として激甚災害に指定する方針と、本日8月4日の閣議で200億円を超える予備費の使用を決定する考えを示しました。あわせて、運転免許証の有効期限延長など行政手続きに特例を設ける「特定非常災害」にも指定する方針とのことです。激甚災害に指定されると、インフラや公共施設の復旧にかかる国の補助率が引き上げられるので、建築・土木の復旧工事の発注にも直接影響してくる話だと思います。なお、これは8月3日時点で示された方針であり、正式な閣議決定は本日中に行われる予定です。金額や指定範囲は最終的に変わる可能性があるので、続報が出たら追いかけます。

出典:日本経済新聞時事通信

熊本地震から1週間、死者38人に 災害関連死の防止が課題に

本日でちょうど地震発生から1週間です。熊本県内では8月3日午後6時時点で災害関連死の疑いがある人を含めて38人が死亡し、避難所には8200人余りが避難、住宅被害は1万2000棟余りにのぼっています。8月3日には県内で初めて最高気温40度超えの酷暑日を記録していて、車中泊や避難所生活での熱中症・災害関連死をどう防ぐかが、今日いちばんの課題として報じられています。

出典:NHK

政府、プッシュ型支援を継続へ 予備費で予算確保の方針

政府は本日、要請を待たずに物資を送る「プッシュ型」の支援を引き続き進める方針を示しました。財源は予備費で確保する構えで、避難所運営や仮設住宅の整備など、これから本格化する復旧フェーズに向けた予算措置がどう積まれていくか、建築・住宅まわりの発注動向にも関わってくるので注視しておきたいところです。

出典:NHK

海外・作品ニュース

海外の建築ニュースは日単位での更新が少ないジャンルなので、この2本は直近数日以内の最新情報として載せています。

上海の美術館でジャン・ヌーヴェル展、開館5周年を記念して8月31日まで

上海のMuseum of Art Pudongが、開館5周年を記念してプリツカー賞建築家ジャン・ヌーヴェルの個展を8月31日まで開催中です。パリのフィルハーモニー、カタール国立博物館、この美術館自体、フォンダシオン・カルティエの4作品を軸に構成されていて、建築家自身がデザインした建物の中でその本人の仕事を振り返るという入れ子構造になっているのが面白いところです。

出典:ArchDaily

ユネスコ世界遺産に新規19件、日本の「飛鳥・藤原の宮都」も登録

ユネスコの世界遺産委員会が第48回会合で25件の新規登録を発表し、そのうち文化遺産は19件でした。フィンランドのアルヴァ・アアルト建築群や、1966年の大地震からの復興過程を伝えるウズベキスタン・タシケントのモダニズム建築群に加えて、日本の「飛鳥・藤原の宮都」も含まれています。地震で被災した都市が近代建築群ごと世界遺産になるタシケントの例は、今週の熊本のニュースと重ねて読むと感慨深いものがあります。

出典:ArchDaily

文化コーナー

こちらも本日現在で開催中のものを2本、現在進行形の話題として載せています。

堀越優希展「質感の建築図」、本日も上野で開催中(8月30日まで)

建築家・堀越優希による展覧会「質感の建築図」が、CREATIVE HUB UENOで本日も開催中です。スケールや領域を横断する見えないつながりを、独自の図法で描いたドローイング展。中山英之さんのコメントも寄せられているそうで、設計図とはまた違う建築の見せ方に興味があるなら覗いてみる価値ありです。

出典:architecturephoto.net

石上純也展、徳島文化芸術ホールへの道のりを追う個展が本日も開催中(8月30日まで)

石上純也さんの個展が徳島で本日も開催中です。徳島文化芸術ホールという実際のプロジェクトができあがるまでの過程を追う内容とのことで、竣工した建物だけを見ていては分からない設計者の思考の軌跡がのぞける機会だと思います。

出典:KENCHIKU