「商店街に建つ併用住宅」、法規だけ見てもこんなに濃い!令和8年度・二級建築士設計製図試験を読む

Architecture / Exam Report

「商店街に建つ併用住宅」、
法規だけ見てもこんなに濃い!

令和8年度・二級建築士設計製図試験を読む

二級建築士の「設計製図の試験」の今年の課題が発表された瞬間、SNSや各専門学校の特設ページが一気にざわついた。タイトルはこれだ。

「商店街に建つ併用住宅(木造3階建て)」

正直、最初に見たときは「またシンプルなタイトルだな」くらいの感想だった。でも法規の視点でじっくり読み込んでいくと、思っていたよりずっと濃い課題だということが分かってくる。今回はあえて法規だけに絞って、このタイトルの裏側を読んでいきたい。

01

この試験、そもそも法律を知らないと話にならない

「設計製図の試験」というと、図面をきれいに描く技術の試験というイメージが強いかもしれない。でも実際は、建築基準法や建築士法のルールに沿って、安全で実用的な建物を設計できるかどうかを見るための試験だ。法律違反のある図面を出してしまうと、それだけでかなり大きく評価が落ちる。

つまりこの試験、突き詰めると「法規をどれだけ理解しているか」を図面というかたちで試されているようなものだと思う。そして今年は、その法規の部分にこれまでにない変化がいくつも起きている。

02

法令集の持ち込みが、ついに解禁された

これまで「設計製図の試験」では、法令集(建築関係の法律をまとめた本)を持ち込むことができなかった。それが令和8年から、試験中に法令集を使ってよいことになった(公益財団法人建築技術教育普及センターが令和8年3月に発表した受験要領による)。

「法律の本を見られるなら楽勝じゃん」と思う人もいるかもしれないが、そう単純な話ではない。資格スクールのTACは、この変化について次のように分析している。

  • 計算式等に関する記述要求が増える(耐力壁の種類と壁倍率、壁量計算、採光計算、道路斜線など)
  • 敷地が準防火地域に指定された場合の、準耐火建築物による建蔽率の割増といった具体的な制度の活用も問われる可能性がある

要するにこれは、丸暗記からの解放というよりも「使いこなせるかどうかのテストの始まり」だ。漢字辞典の持ち込みが許可されたテストで、急に難読漢字を使った長文を書かされるようになるようなものだと考えると分かりやすい。本があっても、引くスピードと内容の理解が足りなければ、結局時間切れになってしまう。

03

「商店街」という言葉だけで、防火のハードルが見えてくる

商店街は店が密集していて、火事が起きると一気に燃え広がりやすい。だから法律では、こういう場所をあらかじめ「防火地域」や「準防火地域」に指定して、燃えにくい建物しか建てられないようにしている。

建物のゾーニングと動線の分離イメージ
Fig.1 — 建物のゾーニングと動線の分離イメージ

TACの分析および総合資格学院の分析では、今年の課題について次のような見立てが共通している。

指定の可能性 必要になる構造 出題の可能性
防火地域 耐火建築物(木造には過剰な仕様) 低いと予想されている
準防火地域 準耐火建築物(木造でも対応可能) 本命と見られている

つまり今年の答えはおそらく、準防火地域に建つ木造の準耐火建築物というラインに収まってくる。これは試験対策のかなり大きな軸になりそうだ。

04

「木造3階建て」、実はみんなが思っているほど新しい話ではない

ここがこの記事でいちばん伝えたいところだ。

ネットの解説記事やSNSを見ていると、「二級建築士は木造3階建てを設計できなかったのに、法改正でできるようになった」という説明をよく見かける。これは正確ではない。

実際の建築士法のルールは「階数」ではなく「建物の高さ」で区切られていた。改正前は、高さ13m以下、かつ軒(屋根のはじっこ)の高さが9m以下であれば、二級建築士が設計できることになっていた。一般的な3階建ての木造住宅は高さ10〜12mくらいに収まることが多いので、実はほとんどがこの範囲に入っていた。

つまり、3階建てだから新しく許可されたという話ではない。3階建ての木造住宅は、ずっと前から二級建築士の仕事の範囲だったのだ。

建築士法における高さルールの改正前後比較
Fig.2 — 建築士法における高さルールの改正前後比較

では何が本当に変わったのか。国土交通省の資料によれば、令和7年4月の改正で変わったのはルールの測り方そのものだ。

改正前 改正後(令和7年4月〜)
判定基準 高さ13m以下 かつ 軒高9m以下 階数3以下 かつ 高さ16m以下
軒高の制限 あり(9m) 撤廃
高さの上限 13m 16mに引き上げ

判断が分かりにくかった軒高9mの基準がなくなり、高さの基準が16mに引き上げられ、判断しやすい「地階を除く階数が4以上」という基準が新しく加わった。これに合わせて、二級建築士が設計できる簡易な構造計算の範囲も拡大され、建築士法上の業務範囲もこの新しい基準に合わせて改正された。

正確に言うなら、「軒高9m以下」という地味だけど厳しい縛りが外れたことで、もっと天井に余裕のある、ゆとりのある3階建て木造も設計できるようになった、というのが実態だ。3階建てそのものが新しいわけではなく、「より背の高い3階建て」が新しく加わった、というイメージのほうが近い。

この理解があると、試験対策の方向性も少し変わってくる。問われているのは「3階建てに慣れているかどうか」だけではなく、階高にゆとりを持たせた3階建て木造の壁量や柱の太さの計算に、ちゃんと対応できるかどうかという、もう一段細かいところだと思う。

05

店とウチを、どう仕分けるか

併用住宅、つまり店舗と住宅が一体になった建物特有の論点として、動線(人の流れ)の分離がある。

  • お店に来るお客さんの動線と、住んでいる家族の動線はきちんと分けておく必要がある
  • 非常時の避難も考えて、店舗と住宅部分の動線は1.5mの有効幅を確保することが求められている(TACの課題分析より)

ここは、お店はお客さんが入りやすいよう開放的にしたい一方で、住宅部分はプライバシーを守れるようにしたいという、矛盾した2つの要求を同じ建物の中で両立させる力が試される部分だ。感覚的な計画だけでなく、避難経路の幅といった具体的な数字でも詰めておく必要がある。

06

まとめ

今年の法規だけを見ても、整理すると次の3つの変化が重なっている。

1

試験の仕組みの変化:法令集の持ち込みが初めて可能になった。これは難易度が下がるという話ではなく、使いこなす速さと正確さが新たに問われるということだ。

2

立地に関わる防火規制:準防火地域・準耐火建築物が前提になりそうだという点。防火地域での耐火建築物までは求められないだろうという見立てが、各専門学校でも共通している。

3

構造規定の変化:木造3階建てはもともと設計できたが、令和7年の法改正で「軒高9m」の縛りが外れ、より階高のある3階建てに対応できるようになった、という点だ。

課題名はシンプルだけれど、その裏にある制度の変化を理解しているかどうかで、解答の説得力はかなり変わってくるはずだ。

References

  • 公益財団法人 建築技術教育普及センター「設計製図の課題」 jaeic.or.jp
  • 公益財団法人 建築技術教育普及センター「令和8年 二級建築士・木造建築士試験 受験要領」 PDF
  • TAC「令和8年 二級建築士 設計製図試験 課題発表」 tac-school.co.jp
  • 総合資格学院「令和8年度 二級建築士 設計製図試験 課題発表」 shikaku.co.jp
  • 総合資格学院「法令集持ち込みに関するお知らせ」 shikaku.co.jp
  • 日建学院「2026年 2級建築士 設計製図課題発表」 ksknet.co.jp
  • 国土交通省「令和4年改正 建築基準法について」 mlit.go.jp
  • ビューローベリタスジャパン「令和7年4月1日施行 建築基準法 構造耐力規定の改正」 bureauveritas.jp

※本記事は2026年6月時点で公開されている各機関・各社の公開情報をもとに作成しています。試験当日の最新の出題内容・受験要領は、必ず公益財団法人建築技術教育普及センターの公式発表をご確認ください。